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本日は、現代訳宗久翁秘録 第76節「一と足踏みはづす時は皆裏表になる事」をご紹介致します。
1.原文
商数月思入克く仕当る時、決して勝に乗るべからず、唯無難に取留ることを専らにすべし。数月思入当る故、売買共心易き者に心得、少々の高下にも、思入を立たがる事あり、是慎しむべし。此商、一と足踏外す時は、皆裏表になる者なり。返す返す大切に取り、疎略に心得べからず。此商、天性自然の者にて高下ある故、三位の伝を離れ利を得ることなし。
2.現代訳
相場が数か月見込みよく当る時は、決して勝ちに乗ってはならない。ただ無難に手仕舞う事に専心するがよい。数か月も見込み通りに相場が動くと、売り買いとも気楽に手出しし易いものに思われて、少しばかりの高下の動きにも見込みを立てたがる事が有るが、これは慎むが良い。
相場は一歩足を踏み外すと、後は逆目になってくるものである。かえすがえすも慎重に商いをし、疎略があってはならない。相場は天然自然のものであるから、三位の伝を離れて利を得る事は無い。
3.私の解釈
この節では、前節「立羽もなく高下に連れ候事」に引き続き、方針維持、及びブレ無い強い心を持つ事の重要性について説かれており、その集大成とも言えるものであると思います。
相場に携わった事のある者であれば、経験があると思いますが、自分の相場観と実際の相場が見事に図当り、利を積み重ね続けると、驕りが出て、客観的な判断に依らず、主観的な判断により間違った踏み出しをしてしまう事が有ります。更に悪い事に、その誤った踏み出しを訂正せず、主観的な判断を重視、ひいては傷口を広げてしまう事が有るかと思います。
これは、相場に臨むにあたり、最も大切な資質の「ブレ無い心を持つ事」を忘れてしまう事によるものです。有名な話ですが、稀代の名横綱双葉山が、69連勝後に敗れた際、「未だ木鶏足り得ず」と電報を打ったと言われていますが、相場に臨むにはこの「木鶏」の心が必要ではないでしょうか。
また、最後に「此商、天性自然の者にて高下ある故、三位の伝を離れ、利を売る事なし」と説かれており、これは、上げ過ぎたものは下げる、下げ過ぎたものは上げる、陰陽自然の道理であり、それはチャートに現れると読み解く事が出来ると考えます。チャートを分析する事が「木鶏」に近づく方法で有ると考えます。
日々、チャートとの格闘が続きます。