本日は、現代訳宗久翁秘録 第141節「下げ相場にて利運落引の節心得の事」をご紹介致します。
1.原文
目次
下相場にて利運落引あり、繋ぎ等になる時は、早速買返す者なり。十分致不申内、落引無之前に、買返す事第一なり。且又、売方にて、少々買も有之、売の分不残落切になり、買の分持になると心得、売返すこと甚だ不宜なり。札方米、御蔵米にても滞り候はば、格別なり、二落も引下ることは、決して無之者なり。上の相場の心持とは大違いなり。二つ仕舞、三つ十分、四つ転じ、是下げ駆引き、第一の伝なり。
2.現代訳
下げ相場で、買い方に追い敷きがかかって、買い方が撤退せず、更に相場を繋いで来た時は、売り方は即座に買埋をするが良い。相場が底を打つ前に、或は買い方に追い敷きがかかる前であっても、買埋をする事が第一である。
また、売り方で、少しばかりの買い分もあって、売りは全て大利となり、買の分だけが持ち込みになると考えて、あらためて売り込んで行くことは非常によく無い。米券の受け渡しに支障が有ったり、在米が嵩んでいる場合などは別にして、下げ相場で底値近くより買い方に二度も追い敷きが掛かる事はまづ無い。こうした点が上げ相場とは大いに違う所である。二度目の追い敷きで手仕舞い、三度目で全て利食い、四度目では途転買いに転ずる。これが下げ相場での売り方駆引きの第一の秘伝である。
3.私の解釈
この節では、買い方に追証が掛かる位の下げ相場における、売り方の心持ちについて説かれています。
同様の内容が、「第45節 下相場利運心得方の事」にもありますが、下げ相場と上げ相場では、その値動きが大きく異なり、下げ相場では買い方の投げが更なる投げを呼ぶ急落となる事から、買い方が極まる前に早めの手仕舞いをするのが、第一の駆引きであると説かれています。
見逃せ無いのが、「売方にて、少々買も有之、売の分不残落切になり、買の分持になると心得、売返すこと甚だ不宜なり。」です。繋ぎの買いを入れたが、その分が含み損となった為、売り決済をする事は、甚だ良く無い、と言う訳ですが、そもそも、下げ相場における繋ぎの買い自体が、値動きの速さから、そぐわない、と言う意味であると考えます。
因みに、上げ相場では、売り方に追証が2回は掛かるので、繋ぎの売りは有効です。
この内容を総合した下げ相場の駆引きとして、「二つ仕舞、三つ十分、四つ転じの事」に込められており、下げ相場では深追いせず、早めの手仕舞いを心掛け、大底を見極めて買いに転じる、此れが宗久翁の説く第一の秘伝です。そのタイミングは、チャートが全てを語ってくれるものと、私は考えます。